彼の甘い包囲網
奏多との出会いは私が高校一年生、奏多が高校三年生の時だった。


大手保険会社に勤める父の転勤で大阪府内のこの街に中学校進学前に引っ越してきた。

梅田から電車で三十分もかからず、閑静な住宅街が広がるこの街を私はすぐに気に入った。



新たに自宅となったマンションの近くにある公立中学校の入学式に間に合い、そこで倉木紗也という親友に巡り会えた。

耳の下で切り揃えられた短めの髪に大きな丸い瞳が印象的な紗也。

しっかり者で面倒見のよい、気の合う親友だ。

紗也の自宅は私のマンションの前にある坂を下りきった場所にある一軒家だ。



中学校卒業後、通学時間が電車でニ十分程の富花高校に紗也と紗也の彼氏の拓くんと共に進学した。

富花高校は共学の私立高校で自由な校風で知られている。

拓くんはバスケ部に入部し、紗也と私は校内の決められた花壇を手入れしている園芸部に入部した。

今まで園芸に携わったこともない私達だったけれど、のんびりしたペースの少人数での部活よ、と部長の迫田さんに誘われて入部した。

拓くんが部活のない日以外は紗也と二人で電車通学をしている。

新しい友人もでき、楽しい毎日だった。



入学して二ヶ月が経った六月初旬。

梅雨の中休みのように、久し振りに太陽が顔を出した。



いつものように紗也と他愛ない話をしつつ、帰路に着いていた。

初めての衣替えで袖を通した夏服のブラウスとベスト。

冬服よりも軽い着心地が嬉しかった。


「楓!」


低い生け垣が続く、グレーのタイルの外壁が印象的な自宅マンションの前で高校三年生の兄、安堂柊に名前を呼ばれた。

ちょうど紗也と別れたところだった。


「ラッキー。
家、帰るならコレ持って帰って」


兄の制鞄やら荷物やらをゴッソリ渡された。

ズシッと腕に重さが伝わる。

人使いの荒い兄を睨み付けた。
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