彼の甘い包囲網
その日以来、柊兄は何も言ってこない。

基本的に柊兄は私に構い倒すタイプではない。

どちらかというと、俺は俺、人は人、というタイプだ。

そういうところはある意味、俺様な奏多に似ている。

充希くんは何だかんだ言っても面倒見がいいタイプだからちょっと違う気がするし。

だから気が合うんだろう。



現在大学を卒業している奏多は、知り合いの大学教授の元で経営学やらの勉強をしたり、既に会社で仕事に携わっているという。

他には会社関係のパーティに出席したり、相変わらずの多忙な日々を送っているらしい。


話を聞けば聞くほど現実味がなく。

私とは違う世界の人なのだなとまざまざと思い知らされた。

……元々私と奏多の関係は『友人の妹』、それだけだ。


好きな人なんかじゃない。

彼氏でも何でもない。


奏多が迎えに来たあの日以来。

私は何かと大学中の女子に注目をされてしまったけれど。

極力気にしないよう、噂話にも関わらないよう、目立たないようにしてやり過ごしていた。


あの日以来、私は奏多に会っていなかった。



留学時の音信不通を私が怒ったからか、奏多からは時折電話がかかってきた。

内容は他愛ないものから、会いたい、と切なく言われる時もあった。



そんな風に言われる度に。

私は落ち着かなくなり、気持ちがざわついた。

平静さを出来るだけ装っていたけれど。

押し込んで考えないようにしていた気持ちが引っ張り出されて胸が痛かった。

その気持ちを探ることが怖くて、奏多に本心を尋ねることはできなかった。
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