彼の甘い包囲網
真っ直ぐに大学から奏多の家に向かった。

呼び出し音を連打する。


ピンポン、ピンポン、ピーンポーン!

ドンドンドンッ、ドアを叩く。


「楓?!」


ガチャッ、と乱暴にドアが開いて部屋着姿の奏多が顔を出した。

眼鏡の奥の瞳が見たことがないくらいに焦っている。


「よく私だってわかったね?」

その表情に驚いて話す私に。

「液晶モニター見たらわかるだろ!
何かあったのか?」


噛みつくように言って私の肩に手を置く。

ザッと私の全身に目をやる奏多。

肩を掴む指が食い込んで、痛い。

真剣で余裕のない奏多の瞳に気圧される。


「な、何でもない。
あ、何でもなくはないけど、奏多が心配するようなことはないよ?」


逆に焦って話す私に。

肩に置いた手を外して。

奏多はハァーと盛大な溜め息を吐いて私の肩にコトンと頭を乗せた。


「……本当に、何もないのか?」

「う、うん」

キッパリ言い切るとまた、奏多は溜め息を吐いた。


「……よかった……」


掠れた小さな声が私の鼓膜を震わせる。

その声に奏多の優しさを感じて。


「……驚かせてごめん」

素直に謝った。


「何があったのかと思っただろ。
頼むからあんな風に来るのはやめろ」


いつも通り玄関に引き入れてくれた奏多はもう三度目になる台詞を延々と私に言う。


「……ごめんなさい。
ちょっと話がしたかっただけで……」

何故か謝り続ける私。

「合鍵渡すから。
もうお前はそれで入って来い」


ぞんざいな口調で私を腕に囲い込んだまま、奏多は呟く。

そもそも何で私は今、奏多に抱き締められているのか。


「いや、あの。
奏多、もうこんな訪問の仕方はしないから、ね?
合鍵は要らないから」

「却下。
お前は俺のものなんだから」

「……合鍵の説明になってない」

言い返す私の髪を優しくすきながら、奏多は言う。

「で?
何が話したかったわけ?」


諭すように優しく私の瞳を覗き込む奏多はすっかりいつもの奏多で。

私の頬を撫でながら見つめる瞳は相変わらず甘い。

穏やかに凪いでいる奏多の雰囲気に便乗するかのように。

私は先刻まで紗也と鈴ちゃんと話していたことをぶちまけた。
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