彼の甘い包囲網
玄関の扉越しに婚姻届にサインをするという、全く乙女ではない記入方法で。

奏多に言われた必要箇所を記入して。

私は奏多に婚姻届を託した。

奏多は今まで見たこともないくらいの穏やかな表情に甘い笑みを浮かべて、ポケットから取り出したスマートフォンでカシャリ、と写真を撮った。


「ありがとう、楓」


秀麗な顔立ちに広がる蕩けそうな甘い微笑。

スッと伸ばした腕が私を囲う。

優しい手つきで私の髪を撫でて。

少しだけ屈んで、彼は私に口付けた。

伏せた長い睫毛が頬に陰を落として。

甘い吐息が私の瞳を掠めた。


ドキン。

鼓動がひとつ跳ねた。


……息が止まりそうだ。


優しい仕草に引き込まれそうになる自分を叱咤する。


「か、奏多!
それ預けておくだけ、だからねっ!
絶対に勝手に出さないでよ!」


私の額や鼻に、飽きずにキスを繰り返す奏多の破壊力に引き摺られそうになりながらも必死に抵抗する。


「勿論。
お前の卒業までしっかり保管しとく。
あ、スマホに今の画像送ったからな」

ニッ、と口角をあげて笑う奏多に、何処かしてやられた感を否めないのは何故だろう……。

しかも私の条件は何だか反故にされている気がする……。
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