彼の甘い包囲網
奏多に婚姻届を預けた日から季節は移り変わって。

私は大学三回生になった。

今月初めから札幌で暮らしている両親は遅い春の訪れをこちらに住んでいる頃より大きく喜んでいた。


住む場所は変わらないけれど、新たな生活が始まった。


奏多とはあれから殆んど会わなくなった。

約束した以上はケジメだから、と奏多は元々住んでいたマンションに引っ越した。

そういうところは律儀だなと思う。

千春さんが戻ってきた奏多に驚いて、私に何かあったのかと連絡をくれた。

こっちの部屋を引き払うことはしないらしいけれど、ただ、生活拠点は完全に移すと奏多は言っていた。

勿論私のレポートをみてくれたり、必要最低限、一緒に過ごしてはいる。

この選択が正しいのか分からないけれど、とにかく今は二人で決めたことを遂行している。



奏多曰く、御守、になっている婚姻届はしっかりと保管してくれているらしい。

大学卒業までという話についてはあの日以降、お互いに口を出すことはなかった。



奏多の時間を奪ってしまうような罪悪感もあり。

奏多を私に縛り付けてしまっている気持ちが拭えずに。

本当に私でいいのか、後悔していないのか、と何回も尋ねたかったのだけれど。

尋ねる勇気はもてなかった。

奏多が真面目な性格だとわかっているからこそ、だった。
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