放課後○○倶楽部
第一三話:長い一日が終わった。
 受話器の向こうから聞こえてきた声は挑発的で、明らかに俺の事を分かっている相手だった。しかし、俺も声には聞き覚えがあるし、今はこの声の主に一言文句を言いたい気分なのだ。

「コハル、どこにいる?」
『トモ兄ちゃん、そこから出たい?』

 まったく俺の話を聞いてないコハル。

「どこにいるんだ、コハル」
『そこから出たくないんだ?』

 こいつ、俺と会話する気がないのか?

「出たいに決まってるだろ」
『そう……なら、パスワード教えてあげる』
「何……?」
『時間掛かり過ぎだよ。私なら一〇分も掛からない』

 それはお前が考えたからだろって。

 しかし、パスワードを教えると何を考えているのだろうか?

 何か裏がありそうで素直に聞き入れる事が出来ない。あのノートにもワザと挑発的な文章を書いてほどのコハルだ。


 ……怪しいな。


 だが、そんな事を言っている場合ではないか。

「教えてくれ。律子ちゃんもかなり疲れているようだし、俺一人ならあとで遊んでやるから」
『ふーん……やっぱり、梅津さんが大事なんだ』
「何を言っているんだ?」

 受話器の向こうで小さく舌打ちのような息遣いが聞こえたかと思えば――
『梅津律子っ、私と勝負しなっ』
 部屋中からコハルの声が聞こえてきた。

「きゃあっ」

 突然の事に驚き、俺に抱きついて来た律子ちゃんを庇って床に伏せたが、それ以上は何も起きなかった。

『な、何、抱きあってんのよおっ』

 が、静かになった部屋の中にまたしてもコハルの声が響いていた。
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