放課後○○倶楽部
「何って、見て分からないのか?」
「なっ……わ、分かるわよっ」
「そうか。コハルちゃんのエッチ」

 わざとらしく『ちゃん』付けで呼ぶ俺を、驚きと怒り、恥かしさとで顔が真っ赤に染まっていくコハルは足を震わせていた。が、腰が抜けるようにその場に座り込んで瞳を潤ませていくコハルが真っ直ぐに俺を見据え、きゅっと唇を結んで睨みつけてきた。

 少し吊り上がった瞳に気の強そうに曲がった唇。

キッチリと切り揃えられた前髪に、後ろ髪は一つに纏めて肩口で揺れていた。しかし、その顔は昔のままで俺的にはかなり懐かしくてちょっと嬉しかった。


 ……しかし、俺の考え通りだな。


 この部屋に隠しカメラがあってどこかで見ているのなら、何かこの部屋であれば一目散に駆け寄ってくるかも知れないと思ったわけで、こんなに簡単に引っ掛かってくれるとは――。

「久しぶりだね、コハル。元気か?」
「元気か……じゃないわよ、馬鹿!」

 ムスっと頬を膨らませて視線を下げていくコハルは、眉をピクっと動かして徐々に不機嫌そうな面構えになっていく。何事かと下を向くと、そこには目を閉じて「ど、どうぞ」と、少し震えている律子ちゃんが健気に待っていた。


 ……さすがは天然娘。


 あの爆撃のようなコハルの登場にも動じずに目を閉じているとは、完全に聴覚を遮断して自分の世界へ入っているみたいだな。

「律子ちゃん、おーい、律子ちゃん。」
「……ど、どうぞ。か、かかか、覚悟は出来てますからっ」

 揺すってみたが俺の声はどこか遠くで聞こえているようで、唇を少し尖らせて明らかにキス待ちの顔をしている律子ちゃんは頬を真っ赤にして可愛らしかった。だが、それが一人の女の子を鬼へと変えたようで、フローリングを踏み割るような足音を響かせて近づいてきた。

「梅津律子っ」
「へ? 黄色のパン……ひにゃ!」

 素っ頓狂な声で目を開けた律子ちゃんはゆっくりと見上げ、鬼の顔を確認して俺の下から目にも止まらぬ速さですり抜けて壁際に張りついていた。

新技を披露した律子ちゃんとは対照的に不機嫌極まりないコハルは眉を吊り上げて怒り顔。

二人の様子を見ているのも楽しいけど、一触即発の状況では俺にも被害が飛び火するだろうから止めておくか。
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