放課後○○倶楽部

「そこで、この大役を電脳革命クラブの部長である海藤翔様にお願いしようと思いまして、ここに来たのですっ」
「……僕?」

 いきなり名前を呼ばれて驚きで目を見開いている部長に――
「そうです! これを出来るのは翔様しかいないのですよ」
 副生徒会長は、すがるように膝を付いて部長の手を取っていた。

 その瞬間、誰もが口を閉ざして一通り顔を見合わせていたが、誰からとなくため息にも似た力の抜ける息遣いが聞こえていた。

「それじゃ、頑張ってな。律子、珈琲淹れて」
「私は研究があるので失礼するよ。トモキン、暇なときは手伝っておくれ」

 椅子の背もたれに身体を預けた和音さんはいつものように律子ちゃんに珈琲を注文し、ついでに「お菓子取って」とコハルまで使っていた。
「え、ちょっ――僕を見捨てないでよ! ああ、ともちゃーんっ」
「見捨ててはいませんよ。始めから相手にしてないだけです」
「それって一番酷いよーっ」

 皆が首を縦に振って頷いている中、一人泣き叫ぶ部長の横で腕組みをして「そうかね」と頷いている副生徒会長は俺の視線に気付いたようで、顔を少し赤くして白々しく逸らしていた。
 味方が誰もいない完全アウェーの部長は可愛くない瞳に涙を浮かべて「みんなの馬鹿」と部室を駆け出していき、そのあとを追って副生徒会長が走り出し、更にその二人を追って今にも死にそうな生徒会長がヨロヨロと部室を出て行ったのだった。

 ……これで静かになった。

 肩の力が抜けて和音さんと同じように椅子の背もたれに身体を俺の前に湯気の立ったおいしそうな香りを放つ珈琲が置かれた。

「どうぞ」
「ありがとう」

 お礼を言って珈琲カップに手を伸ばしたが、よく考えれば夏の暑い時期に熱い珈琲を飲むのはどうかと思う。しかし、夏こそ熱いものを飲むのは身体にもいいと言うし、律子ちゃんはそこまで熱くはしないので飲みやすいものだ。

「ぶあちゃ!」

 ただ、勢いよく飲んで噴出している大熊猫(パンダ)がいるけど、それは気にしないでおこう。
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