放課後○○倶楽部
「お待たせしました」
「ありがとう」

 トレイに湯呑みを二つ載せてやってきた律子ちゃんはテーブルの上に置き、床に直接座っていた。湯気の立つ熱そうなお茶だが、空調が効き過ぎて寒いくらいのこの部屋では丁度いい代物だった。

 ……おや?

 湯呑みを手に取って口に近づけたところで、不意に鼻の中を通り抜けたお茶の香りに嗅ぎ覚えがあった。それは忘れる事もない最近の出来事で、ここに来るきっかけになったはずのものだった。

「これ……あのお茶と同じだ」
「え? そ、それじゃ」

 驚いて湯呑みを落としそうになった律子ちゃんに頷き、俺は一口お茶を口に含んだ。

「あっ、先輩っ」
「…………多分、大丈夫だろう。このお茶には何も入ってないよ」

 喉を通っていくお茶の味を噛みしめながら律子ちゃんに首を横を振った。

 もし、あのときのお茶に睡眠薬が入っていたのであれば、それは俺達をここに運ぶために必要なものだ。なら、今こうして捕まっている俺達を眠らせる必要ってものはまったくないわけだから、ここでは睡眠薬の出番はないと考えるのが妥当だろうな。

 それにあの副生徒会長が関与している……いや、首謀者と見てまず間違いない。

 だが、ここで一つ疑問が残る。

 あの馬鹿で有名な副生徒会長がこんな手の込んだ事をするだろうか? 俺の予想では間違いなく裏で誰かが動いていると思う。それが誰なのかは知らないが面倒な事に巻き込んでくれたものだよ。

「さて……お茶も飲んだし、続きをしますかね」
「はい。でも、闇雲に探しても何も見つかりませんよ? こう、何かヒントのヒントみたいなものがあればいいと思うのですけどね」

 勢いをつけて立ち上がった俺に釘を刺すように忠告してきた律子ちゃんは湯呑みをトレイを載せてシンクへと歩いていった。


 ……確かに。


 律子ちゃんの言う通りなのだが、こういう突発的な事って俺は嫌いなんだ。予定が崩れるし、大概は面倒事が降り注いでくるのがオチだし。現にこうして面倒事に巻き込まれてしまっているわけだしな。
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