俺様外科医に求婚されました
…このままじゃダメだ。
手遅れになる前に、もう一度しっかりと心に鍵をかけなければ、塞いでいるはずの心が開いてしまう。
立ち上がった私はすぐに靴を脱いで部屋に上がると、コートを脱ぎ捨てるようにソファに放り投げて。
そのまま脱衣所に向かうと服を脱いで風呂場に入った。
早く…消さなきゃ。
シャワーを勢い良く出した私は、風呂場に入るとすぐに頭からそれを浴び、髪を思い切り濡らした。
ジャーッというシャワーの音が、耳を覆う。
その音と流れていく水の中で、まだ微かに髪に残った諒太の匂いを感じた私は、咄嗟にシャンプーを手にしてその残り香を洗い流していった。
風呂中に漂う匂いは、いつもと同じシャンプーの匂いに変わった。
すると、やっと消えたとホッとしたはずなのに…何故だか涙が止まらなくなった。
「…っ……」
全部、流れていけばいいのに。
この涙も、この想いも、あの苦しい過去も。
このシャワーの水と一緒に、全て流れていけばいいのに。
泣きながら顔にシャワーを当てた私は、しばらくそのままシャワーを浴び続けた。