俺様外科医に求婚されました
「ちょっと待て」
なのに、そう言って引き止められたことで再び足が止まった。
しかし、待てと言われても困る。
「すみません、私本当に急いで…」
そう言いながら後ろを振り返った。
「ちょっと待ってろ。すぐに降りてくる」
「えっ?いや、だから本当に今急いでるんで無理で」
「それは、多分終電に乗るためだろ?」
大和先生はそう言うと、何故かクスッと笑って。
「今日はいつもより疲れただろうし、走っても間に合わないと思うけど」
「大丈夫です、足は速い方なんで」
「ははっ、でもわざわざ走る必要はない。これ以上疲労を蓄積するようなことをするな。こっちもちょっと落ち着いて、三時間だけ仮眠する時間もらったんだ。だから俺はその時間を、有効的に使うことにする」
有効的?どういう意味?
「夜のドライブデートだ」
大和先生はそう言うと、ニッとはにかむような笑顔を浮かべた。
するとその瞬間、トクン…と胸の鼓動が震えるように高鳴った。
何故なのかはわからない。
でも、確かに感じた。
普段とはどこか違う、高鳴る鼓動を。
「な、何言ってるんですか」
「車で送るから、ちょっと待ってて」
「や、だから!電車で」
「俺が送りたいって言ってんの。これは業務命令」
「あ!また職権乱用ですか」
「ははっ、何とでも言え」
大和先生はそう言って笑うと、まだ何の了承もしていないのにも関わらず、スタスタと足早にエレベーターに乗り込んでしまった。