俺様外科医に求婚されました
「まぁ、理香子がそう言うなら」
崩れた姿勢を正しながら前を向いた大和先生は、運転しながら言葉を続ける。
「こんなかっこ悪い姿も、たまにはありなのかもしれないな」
「えっ?」
「だって、理香子がいつもより優しいし」
横顔に、フッと笑みが浮かんだ。
「これなら毎日へこむのもいい。そしたら毎日理香子に慰めてもらえるだろ」
聞いた瞬間、私は思わず笑ってしまっていた。
そして、何故だかホッとしていた。
いつもの笑顔、いつもの口調。
それを見て、ただ聞いただけなのに。
どうしてなんだろう?そんな大和先生の姿に、不思議と安心している自分がいた。
「でも、やっぱり毎日へこむのは…嫌だな。出来れば俺は、毎日笑っていたい」
私には計り知れないたくさんのものを、この人は背負っているんだろう。
人の命を預かり、その命を左右する責任の重さ。そこで感じる、喜びも、悲しみも。
仕事とはいえ、毎日がものすごい重圧との戦いなんだと思う。
「そうですね、私も大和先生には…笑っててほしいです。出来れば、毎日」
「へっ!?」
運転している大和先生の顔が、いきなりこちらに向く。
「えっ?な、何ですか」
「や、理香子が珍しくそんなこと言うから…びっくりして」
「ちょっ、前見てください、危ないです」
慌ててそう言うと、大和先生はクスッと笑って。
少し照れくさそうに「ありがとう」とつぶやくように言った。