俺様外科医に求婚されました
「…すみません、わからないです」
そう言葉を返しながらも、本当は浮かんでいたことがあった。
それはやっぱり、親が医者であり大病院の跡取り息子だからということで。
必然性的に、医者になるレールが敷かれていたからなんじゃないかと思っていた。
そしてそれは、私が思っていたとおり。
「俺は別に、医者になりたくてなったんじゃないんだ。親が医者で、あの病院を継がなきゃいけないから。ただそれだけの理由」
間違ってはいなかった。
「中学二年くらいまでは、わりと自由に生きてたんだぞ」
大和先生がそう言った直後、信号が青に変わり、車が再び走り出した。
「小学生の頃からずっとサッカーやっててさ、本当サッカーバカで。夢はずっと、サッカー選手だった」
話をする横顔を見ながら、私は「はい」と相槌を打つ。
「親は俺にはあんまり関心なかったから。サッカーでも何でも好きにしてろって感じで。俺も俺で、病院のこととか医療のことなんて全く興味もなかったし。サッカーでクラブユースに入って、そこそこ良いプレーして。好きなことを思う存分楽しんでた」
落ち着いた様子で話を続けていた大和先生の声に、数秒の間が空いた。
そして、一瞬の沈黙のあと。
「でも、それがいきなり変わったんだ。中学二年の秋に、なんの前触れもなく」
「…えっ、どうしてですか?」
「兄貴が、死んだんだよ」
えっ?
その言葉を聞いた瞬間、サーっと胸の中に冷たい風が吹き抜けた。
どう返せばいいのかわからなかった。
突然知らされた過去はあまりにも重く、適切な言葉が浮かんでこなくて。
何も、言えなかった。