俺様外科医に求婚されました
「って、急にこんな話されても困るよな。そりゃ黙っちゃうよな」
「…いえ、すみません。ちょっと、びっくりしてしまって」
いや、実際はちょっとどころの話ではなかった。
お兄さんがいたなんて知らなかったし、そのお兄さんが亡くなっていたなんてことももちろん知るわけなかったから。
とにかく驚いていた。
「俺も…びっくりしたよ。兄貴が死んだのは、俺のせいみたいなもんだったから」
「えっ?」
「中二の時、そこそこ大きなサッカーの大会があってさ。兄貴がその試合を観に来るとか言って、車で会場に向かってたらしいんだけど。その道中に、事故に遭ったんだ」
大和先生はそう言うと、それからお兄さんのことをいろいろ話してくれた。
「歳は八歳年上だったんだけど、本当かっこよくて。俺とは違って頭も良いし、成績も学年でいつもトップ争いしててさ。勉強もスポーツも、何でも出来る人だった。親からの期待には期待された以上に応える人で。跡を継ぐ将来を見据えて、医者を目指して医大に通ってた。
そんな兄貴がいたから、弟の俺は自由に好きなことをさせてもらえてたのに…」
途切れた言葉に、思わず隣に目をやった。
遠くを見るような横顔に、何故だか胸が締め付けられた。
哀しげで切ない瞳。その瞳の奥には、何が映っているんだろう。
「俺なんかに構わずいてくれたら。試合なんか観に来ようとしなかったら。兄貴は事故になんて遭ってなかった。でも、未来を期待されてた兄貴は死んで。生きてる俺は、ただのサッカーバカで」
大和先生はそう言うと、ふぅ、と小さく息を吐いた。
そしてまた、話を続ける。
「でも、そんなサッカーバカもさ。おまえがサッカーなんてしていたからだとか、あなたが試合になんか出るからだとか。原因は全てサッカーだとか。そんな風に言われたら、ボールに触れることすら出来なくなって。それからすぐにサッカーはやめた」
聞きながら、胸が苦しくなった。
中学二年とはいえ、心はまだ子供だったはずだ。お兄さんが亡くなったことで傷ついた傷口を、どうして周りは優しく癒してあげなかったんだろう。
おまえのせい?あなたのせい?サッカーのせい?
事故は、偶然起きたのだ。
仕組まれたものでも、誰のせいでもないはずなのに、その責任を、まだ子供だったこの人に、どうして押し付けるようなことをしたんだろう。
好きなことを諦めなければいけないのは、大人だって辛い。それが子供なら、尚更辛かっただろう。