俺様外科医に求婚されました
ベッドから降りた私は、掛けていたコートの前までいくと、そっとそれを手に取った。
自分でも、自分がよくわからない。
手にしたコートを、私は無意識のうちにぎゅっと抱きしめてしまっていた。
どうしてこんなことをしているのか。
そう思えば思うほど、バカみたいだと思った。
でも、コートに残る懐かしい匂いが諒太のようで。
ギュッと目を瞑った私は、しばらくその匂いに包まれた。
爽やかなシトラスの香り。
諒太の首筋の匂い。
…懐かしくて、なんだか不思議な気分になる。
だけど、その時。
再び鳴り始めた大音量。
今度はスマホのアラーム音が部屋に響いた。
ふと我に返った私は、慌ててスマホのアラーム停止ボタンを押しにいった。
「…何やってんだろ」
そして独り言をつぶやくと、諒太のコートをハンガーに掛け直して元の場所にそっと掛けた。