たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
あ、お茶出した方がいいよね。いや、まずは上着を預かろう。

部長ーーと声を掛けながら振り向いた瞬間、彼の端正な顔立ちが目の前に近付いてきていて、ドキンと緊張したのも束の間、あっさりと唇を奪われる。


「んっ……」

突然のことに、目を閉じることも叶わなかった。
見開いた視界に、彼の伏せた瞳から長い睫毛が見えた。


唇が離れても、私は口をぱくぱくさせて部長を見つめることしか出来ない。


「そんなに緊張するな。二度も痛い思いさせたくない」

部長はスーツの上着を脱ぐと、私を抱き寄せて再びキスをする。
痛い思いって、まさか……。


「あ、あのっ!」

必死の力で彼を自分から離し、訴えかける。
部長は「何だ?」と聞き返してはくるけれど、口元には薄っすら笑みが浮かんでいて、おそらく私が何を言いたいのかは分かっている。分かっているけれど、言わせようとしているのだろう。


「……するんですか?」

「何を?」

「そっ、そこまで言わせるんですか⁉︎」

さっき部長から『鬼』と言われた私だけど、私から言わせたら部長の方がよっぽど鬼だ。


「言えません。酷いです」

「はは。悪かった。じゃあ俺が言おう。セックスしたい。これでいいか?」

「……っ!」

いいかって言われて、いいですって答えるような質問じゃないんですが!


それに……。



「……駄目です」

「何故?」

「……まだ心の準備が出来ていません。…あの痛みに耐える心の準備が」


〝初めての時は痛い〟とは周囲からよく聞いていたけれど、あれほど痛いとは思っていなかった。血も出たし。
だから、二回目だってきっと痛いだろう。
痛いからしたくない、と言うつもりはないけれど、少し気持ちを落ち着かせてからがいい……ってわがままかな。


そんな私に、部長が小さく笑った。


「な、何で笑うんですか! 私は本当に痛くてーー」

「分かってる。笑って悪かった。……でも、そう思っているなら尚更、試してみようか」

「試す?」

ーー二回目も痛いかどうか。


そう言ったのとほぼ同時に、部長は私に覆い被さりながらキスをしてきた。
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