たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。

「だけど本当に驚きました」

レストランを出た後、私は部長のマンションに泊まりに来ていた。
リビングのソファに二人並んで腰掛けて一緒にコーヒーを飲みながら、私は例の結婚について口にした。


「確かに、あの二人が付き合い始めたことを最初に聞いた時は俺も驚いた。でも、言われてみればしっくりくる部分もあるな」

「あ、そうですね。二人共性格が似ているからかな。いつも明るくて元気なところ」

あの二人なら、きっと笑顔が絶えない明るい家庭を築いていくんだろうなぁ……。そんなことを考えると私まで幸せな気持ちになってくる。


「でも、結婚は確かに急だったよな。だけどお互いに高校時代からの知り合いだし、きっかけがあればすぐに結婚に進むのも理解出来る」

「それもそうかもしれませんね。きっかけは大事です」

「……お前は?」

「え?」

何を聞かれているのか理解出来ず、私は思わず首を傾げる。すると。


「お前は、結婚を意識しているか?」


そう尋ねられ、胸がドキンと反応したのは言うまでもない。
だけど。


「そうですね。いつかはしたいと思います! 今はまだ考えられないですけど」


そう答えると、一瞬だけ部長の顔が曇ったように見えた。


私……まずいこと言っちゃったかな?



「そうだよな。まだ考えられないよな」

「あ……」

もしかして、部長は私との結婚を既に考えて……?

そうだとしたら凄く嬉しい。だけど、なら今すぐ結婚しましょうとは言えない。結婚について真剣に考えたことはまだない。


部長の顔が曇って見えたのは一瞬だけで、その後は普段通りの彼だった。


私の気にしすぎかなと思いたいけど、実際はどうなのだろう……。
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