たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
突然のその発言に、心臓に火が点いたみたいに身体中が熱くなる。


何を、言ってるの? 訳が分からず、彼を見つめ返すと。


「自分の意見を言えない性格も、俺は可愛いと思う。でも、俺の前ではいつでも本音で話してほしいとも思った。そうやって、少しでもお前の支えになりたいとも」

「部長……」

「お前の優しさも、顔も、声も。全てに惹かれている。いつでも守ってやるから、俺の側にいろ」

どこまでも真っ直ぐな彼の瞳。
その言葉はどこか強引なのに、甘くて、優しい。


部長と付き合ったら、きっとたくさんの幸せで満たされるんだろう。いつも優しさで包んでくれるんだろう。守ってくれるんだろう。


だけど……。


「ごめん、なさい」


私は謝罪を口にした。


「付き合ってる奴がいるのか?」と彼は聞いてくるけれど、私は首を横に振り、

「そういう訳じゃないんです。でも……忘れられない人がいます」

そう、答えた。


この性格のせいで、溢れる想いを何一つ伝えられなかった、初恋の人。

……彼を好きになったのは、もう随分前のことだ。それなのに、その想いを今も引きずっている。


まだ好きなのかと言われれば、そうじゃないかもしれない。私だって、他の男性に目を向けようとしたことは何度もあった。

だけど、その度に〝あの人〟のことを思い出してしまっていた。


こんな中途半端な気持ちのまま、部長の気持ちに応えることは出来ない。



それでも、部長は。



「そんな理由なら、納得出来ない」


そう言って、正面から私のことをギュッと抱き締めてきた……。
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