たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「謝れと言っている訳じゃない。ただ、女性社員に付き添ってもらった方が、桃城自身が安心しただろ。こうやって、俺の家に連れ込まれずに済んだはずだからな」

「連れ込まれるだなんて、そんな」

私は慌てて首を横に振る。迷惑を掛けているのは私の方なのに、何でそんなことを言うの。
……でも、さっきの言葉はそういう意味だったんだ。やっぱり部長は優しい。私のことをどこまでも心配してくれている……。


「……ありがとうございます。私、自分のことを伝えるのが苦手で、具合が悪いことも言い出せなかったんです」

私の言葉に、今度は部長が「え?」と聞き返してくる。

「自分の言ったことで、相手を困らせるんじゃないかなとか、気を遣わせるんじゃないかなとか、色々考えてしまって。何が原因って訳じゃないんですけど、子供の頃からこういう性格なんです」

自分の意見を言うのが怖くて、いつも他の人の意見に頷いていた。
周りに合わせるのも嫌いじゃないから、このままでいいかなんてずっと思い続けてきたけれど、今はこの性格が何だかとても恥ずかしく思える。


だけど部長は。


「そのままでいいんじゃないか」


そう言って立ち上がり、私のすぐ隣に座り直す。


「お前はその性格を短所として考えているのかもしれないが、俺には他人を思いやれるという長所にしか思えない」

「部長……?」

部長の顔が、近い。
熱っぽい瞳で見つめるのはどうして?
思わず、顔を逸らしてしまう。


すると、


「綾菜」


と急に名前で呼ばれ、ドキッとすると。



「俺の恋人にならないか」



……え?
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