手をつないでも、戻れない……
~樹~


 こういった場合、いったいどこで話し合いをするのだろう? 

 あまり人の出入りの多い店は、誰にとっても不利な事になる。

 そうかと言って、俺の家に彼女を入れるのもどうかと思うし…… 

 彼女の家に妻を入れるのも……


 こんな事で頭を悩ませる自分もどうかと思う…… 

 事はもっと重大だ……



 だが、何故妻は彼女に会う事を優先させるのだろう? 

 俺の話など聞く耳をもたない。 

 彼女に対して怒りがあるのは分かるが、ただ、罵倒したいだけのようにも思えない…… 


 それに、彼女も俺の話も聞かず、マリと言う。

 俺には、全く二人の考えが見えなかった。



 ただ、全ての責任は俺にあり、出来る事なら誰も傷つけたくはない…… 

 奇麗ごとだと分かっていても……



 結局、少し離れた友人の経営する喫茶店の一目に着かない場所を借りる事にした。


 
 俺は妻と、周りからは殆ど見えない、奥の席に並んで座った。

 特に会話も無く、ただ彼女の来るのを、嫌な胸の高鳴りの中で待つ。



 喫茶店の入口が開いた音がしたと同時に、「いらっしゃいませ」と友人のが響いた。

 俺達の座っている席からは、入り口は見えない。


 カツカツとヒールの音が近付いてくる。


 緊張して心臓が飛び出そうな気持を落ち着かせるように、大きく息を吸った。



 そして、テーブルの横で止まった足音をの先を見上げた俺は、あんぐりと口を開けてしまった。


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