手をつないでも、戻れない……
「そうね…… どこかで、私達の十五年間は間違ったものじゃないって、認めさせたかったのかもしれない。その上で、半端な気持ちじゃなく、あなたを奪って行って欲しかった」


「分かっていたよ……」


「分かっていて、黙っていたの、酷いわね…… そんな風じゃ、また、彼女に振られるわよ」


「ああ。何回だって、あきらめないから大丈夫だ」


「それを、私に言う?」

 妻はチラリと俺を睨んだ。



「はははっ。そうだな?」



「きっと、私達の関係っておかしいわよね……」


 妻は、窓に目をやり、何かを考えているようだった。


「いいのかな? もっと、ゴタゴタすると思っていた…… 一応、俺は不倫という裏切りをしたわけだし…… 罰当たらないかな?」

 俺は、情けなくも、不安げな顏をしてしまった。


「いいのよ。私達今まで一生懸命やってきたじゃない。お互いの事、大切に想ってきた。だから、お互いの幸せを願いたいのかもしれないわ……  そんな、夫婦があってもいいじゃないの?」


 妻は、本当に清々しい表情で、俺を見た。


 きっと、妻も苦しみ、悩んで答えを出したのだと思う。




「きっと、俺達これから、もっといい関係になれるよ」


「そうかもね…… でも、あなた、彼女早く捕まえた方がいいわよ。きっと、彼女もてるから……」


 妻は、面白そうに笑った。



「ありがとう……」


 俺は、妻に深々と頭を下げた。


「私も、ありがとうございました」


 妻も、深く頭を下げた。
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