手をつないでも、戻れない……
「由梨を傷つけてしまうのかな?」


 俺にとって、一番気がかりな事だ……


「どうかしら? あの子にとっての幸せは、私達が仲の良い関係である事だと思うわ? 私達がいがみ合って一緒にいる事の方が辛いと思う。
 それに、今までの生活も否定する事になるわ。あの子にとって、大切な家族でいましょう」



「本当にお前には感心させられるよ。由梨の事は俺が責任もつ。時々三人で食事でもしよう」


「ええ」


 妻は、今までに見たこともない、輝いた目をしていた。

 きっと、これからの人生に、色々な期待と希望を胸に秘めているのだろう……


 俺は、妻のそんな目を見ながら、冷めたコーヒーを口にした。



「それにしても、彼女の格好と演技凄かったわね……」


 妻は、思いだしたように、目を動かせた。


「本当だな」


 俺と妻は、目を合わせると、思わず声を出して笑ってしまった。

 今まで二人で顔を見合わせ笑った事なんてあっただろうか? 

 やっと、形は変わっても信頼と言う関係が出来たきがした。


 始めて、妻の心が見えた気がした。



「本当に、必死で…… 自分の為じゃなくて、あなたを守る事だけを考えていた。こんな愛し方もあるんだって思ったら、なんだか、意地悪言っちゃった……」


 妻は、少し申し訳なさそうに、肩を竦めた。


「でも、意地悪で言った訳じゃないだろう?」


 そう言った俺は、妻の思いと、彼女の思いが絡み合いながら、胸に落ちてくるような感覚だった。
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