【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
そう、あれは5年前だ。まだ入社2年目の藍本さんは、取引先を相手にガチガチに緊張していた。こちらが発注サイドなのだから堂々とお客様を演じていればいいものを。

もちろんあのときはオレもボスも彼女のことは知らない。小さな街の駅前再開発事業は事業としてはちっぽけなものだった。見込まれる利益に対して手間が掛かりすぎるから。オレはそう考えていたけど、ボスは違った。別の捉え方をしていたんだろう。

ガラス張りの会議室、通路を通りかかったボスは足を止めた。
オレも足を止めて会議室の中を見やる。

その透明な箱の中で、彼女は図面を持ち、説明をしていた。
それは取引先ではなく、うちの常務だった。

さっき緊張しているように見えたのは間違いだった。たぶん、常務に対して怒っていたんだ。

くすり。ボスが笑った。


『唐澤、あとで議事録を取り寄せろ』
『は、はいっ!! かしこまりましたっ!』


後日、その議事録を読んだボスは嬉しそうだった。大学時代にボランティアで高校生たちと街の活性化について活動していた彼女にとって、駅前で若者たちがイベントを開けるスペースを確保することは最大の関心事だったらしい。その熱意に押された取引先は駅ビルの隅に小さなオープンスペースを用意してくれた。それが当たって、地元住民からは感謝されることになる。
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