【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
いま手掛けているのは隣市にある駅前の再開発だ。人口50万人の比較的大きな市の玄関口は、昭和の時代に建てられた商店街が空き家と化し、ドーナツ化現象を起こしている。郊外には住宅地が造成中で、駅前の再建が必須だ。以前に別市の駅前再開発で成功した三國不動産ホールディングスが落札し、再び私も再開発に携わっている。

ホテルと商業施設の誘致が私の課の担当だ。それが気が重い原因になっている。社としては前回誘致したホテルと商業施設を今回もと考えていて、その商業施設の担当者のひとりが橘さんなのだ。橘さんとはそれで知り合ったのだけど。

ただでさえ仕事に身が入らない。なのに今日は開発2課に他部署からの来客が普段の倍いる。メールや内線ですむ案件をわざわざ報告にくる輩が多いこと!

そのひとたちの視線が私に集中しているのは気のせいではないだろう。
何気ない人の視線にそわそわする。雅さんって本当に人気者なんだ。

両手でパンパンと頬をたたいた。

マーケティング部とすり合わせた予算データを作成する。それを課長と部長のパソコンに送る。返信を待つ間、前回の案件でお世話になったホテルの担当者から届いた報告書を確認する。しばらくして部課長からメールの返信が来て、私はすぐに営業部との会議をセッティングしようと会議室の空きを確認した。あと営業部の……。


「……さん、藍本さん!」


名を連呼され、モニターから視線をはずしてキョロキョロした。斜め向かいの武田さんだ。


「部長がお呼びですよー」
「すみません、すぐに」


立ち上がろうとすると部長が向こうの席から声を出した。


「そのままデータを持って副社長室へ行ってくれ。副社長直々にデータを見たいそうだ」
「副社長ってどの副社長ですか」
「雅副社長だ」
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