【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
広いオフィスに部長の声が響きわたって、室内にいた社員たちが一斉に私を見つめた。

ああ、もう、なんで?!
私、なにかした?

入社してはこんなに注目を浴びたことはない。あまりの恥ずかしさに顔が火照る。かあっと暑くなって体中に汗をかく。データをタブレットに移して席を立つ。

斜め向かいの武田さんはにこにこと微笑んで、いってらっしゃい、と手を振っていた。



*―*―*


ポーン。エレベーターのパネルは25を点滅させると目の前の扉を開けた。正面の応接ロビーには商談している上層部の姿。秘書課のカウンターでは訪問者が秘書とやりとりをしている。その後ろをすり抜けて通路を進む。ちゃんと空調は効いているはずなのにどこかひやりとした。慣れない空間に緊張を強いられているから。こんなところ一般の社員が来るところじゃない。アウェー感たっぷりの洗礼だ。

ふかふかの絨毯にヒールが埋もれる。足元もおぼつかない。雅さんって重役のひとりだと今更ながら認識した。同じビルの中にいてもすれ違うことすらない上層部。

そう思って私は副社長室の前で髪と服を整えた。ましてや今は仕事のことで呼ばれたのだし。

ノックすると中から雅さんの返事がした。カチャリとノブが回る音がして開いた隙間から彼の胸が見えた。オフホワイトのシャツに冷めたピンクのネクタイ、濃紺のベスト。上着は着ていないようだ。


「早かったな」
「失礼します」


私はタブレットを抱えて深々とお辞儀をした。姿勢をもどすと、優しい瞳をした副社長がドアを広く開けた。
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