××夫婦、溺愛のなれそめ
すぐ近くにあるという給湯室へ向かう真由さんのあとについていく。
彼女は慣れた手つきで全員のカップを用意し、インスタントコーヒーの蓋を開ける。
「いまだにコーヒーサーバーを入れてくれないんですよ、神藤室長ったら。休憩ばかりするようになったら困るとか、六人しかいないのに必要ないとか言って」
そう言いながら、カップの中にコーヒーの粉をスプーンで入れていく。
「あの男の人はいつもブラックなんです。女の人はその日によって気分が違うので、砂糖とミルクを別に持っていきます」
よく見ると、カップの中の粉の量がみんな違っていた。おそらく、そえぞれの好みの濃さに仕上げるためだろう。
地顔が笑顔みたいな真由さんは、鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気でポットからお湯を注ぎ始めた。
手伝って、と言われたのに、私はお湯を入れられたカップを軽くスプーンでくるくるするだけで作業は終わった。
「あまり気にしないでくださいね。午前中はいつも忙しいんです。みんなそれぞれ、CEOのスケジュール確認、調整、各方面からの電話応対、書類作成などなどをしています」
「なるほど」
「あとで私のパソコンを見せますね。社内全員が共通して使うシステムがあるので、まずはそこから」