××夫婦、溺愛のなれそめ
いくら山になっているとはいえ、資料を読むだけなのは辛い。
周りは着々と自分の仕事を進めている。
ずっとパソコンに向かってキーボードを叩いていたかと思えば、デスクの上の電話が鳴ったら即刻とる。
丁寧な言葉づかいで応対をし、それが終わったらまたパソコンに向かう。
……無視だ。みんな忙しそうだけど、ひとことも私に話しかけてくる人はいない。完全にいないものとして扱われている。
書類の整理とか、掃除とか、そういうことからならすぐできるのに。雑用でもさせてくれればいいのに、皆様完全無視を貫き通す。
うーん。私がレヴィの妻だから? 下手に雑用を言い付けてもいけないし、上から目線で指導してもいけないと思っているのかも。
逆の立場だったら、やっぱり関わりたくない。忙しかったら尚更だろう。
資料で顔を隠し、声を出さないように気を付けて深いため息を吐き出した、そのとき。
「莉子さん、私コーヒーを淹れるので手伝ってもらえませんか?」
真由さんがすっくと立ち上がった。
「え、あ」
「皆さんも飲みますよね?」
彼女が笑顔で聞くと、忙しそうにしていた秘書さんたちの顔がほころぶ。