××夫婦、溺愛のなれそめ

「キミのお母さんは忙しい人だろ。お互い時間がなかったから、昼休憩にちょっと話をしただけだけど、快く了承してくれたよ」

お母さんはいわゆるバリキャリで、生命保険会社の支店長を務めている。

保険の外交員を始めたのは私が小学生の時で、理由はお父さんの収入にお母さんが満足できなかったから。

お父さんは真面目な会社員だけど、出世の機会に恵まれず、当人もあまり偉くなって責任が重くなるのは嫌だなあという、欲のない人。

お母さんはそういうお父さんに物足りなさを感じていたんだろう。「あんたがやらないなら私がやってやる」とばかりに仕事に打ち込み、パートから正社員に、いつのまにか支店長になっていた。

土日もお客さんから電話があれば即出かけてしまうので、ほったらかしにされた私は寂しい子供時代を送ったものだ。お父さんは家にいたけど、やってくれるのは簡単な家事くらいで、あとはのんびりしていたい人だったので、滅多に出かけなかった。

「お父さんは?」

「夕方、仕事が終わった頃に会社で待ち伏せ。目をぱちくりさせてた。面白かったな」


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