××夫婦、溺愛のなれそめ

「そうおっしゃるなら、お教えしましょう」

ほらね、褒められて悪い気になるひとはいないのよ。しかも私の作り笑顔は免許皆伝級なんだから。職場でも末期では使う気にもならなかったけど。

とんかく、これで献立を考える手間も省けるし、人手は二倍。

夕食づくりって意外と労力使うから、それを手伝ってくれる方が落語を披露してくれるよりよっぽど助かるわ。

「むむ……私の残していったものがまだ残っていますね。なのにこんなものが増えている」

神藤さんは出汁用の昆布や鰹節を見て眉をひそめた。私はそれらで出汁を取ってこすのが面倒臭いので、おいしそうな天然出汁パックをネットで注文し、それを使っていた。

「どう考えたって、パックになったものの方が手軽でしょ」

実家で使っていた化学調味料の顆粒だしよりよっぽど美味しいけどな。おいしければいいじゃん。

「忙しいときはかまいません。が、料理の基本を知りたいとおっしゃるからには、まずだしの取り方からやりましょう」

「はーい」

ちょっと面倒臭いけど、まあいいか。どうせ仕事もしてないし、体力は余っている。

神藤さんは冷蔵庫にあるものでぱぱっと献立を決め、順序良く私に指示をし、彼自身も見本を見せると言いながら手伝ってくれた。


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