××夫婦、溺愛のなれそめ
「何しに来たんですか。嫌がらせをするなら、主人に言い付けますよ」
今や私はレヴィの正妻だ。ただの秘書より立場は上のはず……なのに。
「レヴィ様に言い付けられてきたのです。奥様が家事で困っていること、または面倒くさくてなかなかできないことをフォローしてくるようにと」
「レヴィが?」
「ついでに、話し相手になってやってくれと。というわけで、ばかばかしい話を一席」
神藤さんがバッグから座布団を出して床にひき、その上に正座する。扇子まで取りだしたので力が抜けた。
「落語するんですか?」
「そのつもりですが」
やっぱり。このひと真面目すぎるんだ。
「レヴィは話相手って言ったんでしょ。それって一方的に面白い話を聞かせろってことじゃないと思いますよ。会話しましょう、会話」
普通、話相手をしろって言われて、落語練習してくるか? ある意味すごいし、聞いてみたいような気がするけど、夕方は意外に忙しいんだから。
「ちょうど良かったです。私、ちゃんと料理を習ったことがなくて。基本を知らないんです。レパートリーもすぐに底をつきそうで」
「ほう」
「神藤さんのお料理、とても美味しかったから。教えてほしいな」
職場で習得した作り笑顔を向けると、神藤さんは立ち上がってメガネを直した。