俺様社長はウブな許婚を愛しすぎる
「そうなんだ、今夜健太郎は学会でいないらしくてな。久し振りに灯里を独り占めできる」

「そ、そう……ですか」

どうしよう、顔が引きつる。

どうなの? これ。婚約者より結婚して里帰りしている妹を取るのって。


いや、でもそれでこそ和臣さんじゃない。第一彼が灯里ちゃん第一主義だってことは、片想いしている時から理解していたことだ。

なのにどうしてモヤモヤするんだろう。

「それじゃ千和、戸締りしっかりするんだぞ」

「……はい」

彼は私を玄関先まで送り届けると、颯爽と帰っていった。

さり気なく「お茶でもどうですか?」と聞いた私の誘いも華麗にスル―して、家に上がることなく。

バタンとドアが閉まる音が異様に虚しく聞こえる。

トボトボと重い足取りでリビングへ向かい、深く腰かけた。

「なんだろう、この気持ち……」

静かな室内にポツリと漏れる声。

田中さんに聞かれたから? だからこんなにもモヤモヤしちゃっているのかな。
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