たぶん、トクベツちがいな恋。


・・・


「ここが試験会場な。色々教室はあるけど、ここに並んでるどこかで受けることになると思うよ」


急いで連れてきて見せた試験会場。初めて入るらしい茶々は、少し緊張した面持ちで、その教室を見ていた。


「普通の教室なのに、本番はもっと違う場所に見えるんでしょうね。不思議」


机を指でなぞりながら、呟いている。相当、緊張しているらしい。

ちなみに、昨日までのセンター試験の採点結果がどうだったのかは聞けていない。けど、表情は明るかったから、3人ともまぁまぁの成績を残しているのではないかと勝手に思っている。


「…まぁ、こんな感じだから。時間あるならほかの教室も見てみるといいよ。俺、これからバイト行くけど」

「えっ…、もう行くの?」

「うん。2時からだし」


気がつくと、スマホには紀伊さんからの着信が。

集合時間、1分前。ここから走ったとしても、5分はかかるな。悪いけど、先に行っててもらおうかな。

着信履歴から、発信ボタンを押した。2コール目で、紀伊さんの声は耳に届いた。


「あっ、紀伊さん、お疲れ様です」

『おお〜!陸奥くん!どうした?』

「すんません、今ちょっと教養学部の方にいまして。ここから走っても5分は遅刻するんで、やっぱり先に行っておいてください」


ちら、と視線をズラすと、茶々が俺の方をじっと見ていた。時間がないことを知って、心配させているのかもしれない。

なんとなく、こちらに向けられている前髪に手を伸ばすと、耳元で響いていた声は、さらに跳ね上がる。


『アッ、それがねぇ。小田原さん、10分くらい遅れるって言ってたの。だからあたしも、これから…って、陸奥くん発見!!』

「!?」


耳元の声の方が、少しだけ遅れて聞こえた。

それよりも、すぐそばで聞こえた声の方が、大きくて。


びっくりして声を辿ると、そこには、指先をこちらに向けている紀伊さんの姿が。


…あぁ、そう言えばこの人、教養学部だったんだっけ。


< 82 / 166 >

この作品をシェア

pagetop