“あなたを愛しています”




振り返ると、落ち着いたスーツを着た白髪混じりの男性と、着物姿の女性が立っていた。

二人とも、六十代後半から七十代ほどだろうか。

特に男性は厳しいその顔で、司君を思いっきり睨んでいる。




嫌な予感がした。

司君の手を握りながら震えていた。

こんな私に見向きもせず、静かに男性は言い放つ。




「京都に帰りなさい」




その声は静かなのに、迫力に満ちていた。

思わず怯んでしまった私の手を、司君はぎゅっと握り返す。

その手は、少しだけ震えている。




「ここはお前のいる場所ちゃう。

お前は桜庭家を継ぐ者や。

自覚を持て」




司君の関西弁は大好きなのに、この人の関西弁は恐ろしい。

まるで、怒られているように。


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