ほんもの。

安藤がいてくれて良かった。
今、私一人だったら、きっと泣いてた。

「だから、どっちも悪かったことにしましょう。それから」

鞄を持った。

「さよなら、もう会いません」

安藤の腕を取って出口へ向かった。奥さんが見ていて、脇から出てきたら怖い。
次は刺されるかもしれないし。

無事に店を出て、安藤の腕を離した。

「あー怖かった!」

「はあ?」

「安藤、出てきちゃうし!」

私は鞄を持ちなおす。安藤は「遅かったから」と分かりきった答えを口にした。

それがなんだか笑えた。


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