ほんもの。
息が出来ないほど、激しく重ねられる唇。
熱い。どろどろに溶けそう。
ちゅ、と舌を吸われて膝が震えた。もっと、とそれを追いかける。
「……なんかな、月白見ると盛る」
「……狼なの?」
「かもしれない」
最後にと軽く口づけて、私の腰を支えながらマスクを直す安藤。器用な人間だ。
器用に生きてきた人間だ。
安藤は経理の階と一階のボタンを押して、少し溜息を吐いた。
今は安藤が何しても格好良く見える王子様フィルターでもかかっているのだろうか。こんな所でキスしてきて、誰かに見られたらどうするんだと怒る気にもなれない。