君は太陽
私はポツリポツリと、心の中の不安を口にする。
「……松嶋くんのお父さんと、私の父親って、同一人物じゃないよね?」
「何を言い出すかと思えば。父親が社長って人なんか、企業の大小はあれど結構いるはずよ」
私の不安を瑞穂ちゃんはすぐに否定した。
「それに、ふたりとも同じ歳だし。結衣ちゃんの父親にあたる人が政略結婚したとしても、さすがに松嶋くんが産まれるまでの日が短い気がするわよ」
「そうかな?」
「そうよ。そんなに心配なら本人に聞いてみるのが一番」
瑞穂ちゃんはサラッとそう言うけど、そんな簡単にはいかないのに。
「結衣ちゃん。勝手に決めつけるのは悪いクセ。ちゃんと松嶋くんと話しなさい」
私と二十八年間の付き合いをしている瑞穂ちゃんには、私の気持ちなんてお見通しらしい。
心配そうな顔を向ける瑞穂ちゃんに、私は曖昧な顔でうなずいた。
松嶋くんから連絡があったのは、その日の終業前のことだった。
『今日、うちに来て待ってて。ちゃんと話すから』
内線を取ると、普段あまり見かけないくらいの焦った松嶋くんの声が受話器から聞こえてきた。
恐らく小春ちゃんから、松嶋くんが御曹司であることを私が知ったことが伝わったのだろう。
『わかった』と返事をして、受話器を置いた私は、終業後に松嶋くんのマンションへと向かった。
向かう道すがら、馴染みのスーパーに立ち寄り、夕食の買い物をすませる。
ふたりが会うのは、決まって松嶋くんの住むマンションだった。
会社から松嶋くんの家の方が近いということもあったけど、一番は私が松嶋くんを部屋に呼びたくなかったというのが一番の理由だ。
松嶋くんには、母が大学時代に亡くなったことは伝えているけれど、父に関しては私が産まれる前に亡くなったと嘘をついている。
だけど、家にある仏壇に飾られているのは、母の遺影と位牌しかない。
しっかり者の松嶋くんのことだ。家に入って仏壇を見つけたら、絶対お線香をあげたいと言うに決まっている。
そして、すぐに気づいて聞くだろう。『お父さんの写真は?』って。
そういう理由から、私はこの六年間、松嶋くんを部屋に入れたことがない。
多分松嶋くんも不思議がっているとは思うけど、付き合っていることを知った瑞穂ちゃんが『うちの親が結衣ちゃんのことを娘のように可愛がってて、過保護だから男が来たって聞いたら心配する』と言ってくれたこともあって、ここまでしのいできたのだった。
「……松嶋くんのお父さんと、私の父親って、同一人物じゃないよね?」
「何を言い出すかと思えば。父親が社長って人なんか、企業の大小はあれど結構いるはずよ」
私の不安を瑞穂ちゃんはすぐに否定した。
「それに、ふたりとも同じ歳だし。結衣ちゃんの父親にあたる人が政略結婚したとしても、さすがに松嶋くんが産まれるまでの日が短い気がするわよ」
「そうかな?」
「そうよ。そんなに心配なら本人に聞いてみるのが一番」
瑞穂ちゃんはサラッとそう言うけど、そんな簡単にはいかないのに。
「結衣ちゃん。勝手に決めつけるのは悪いクセ。ちゃんと松嶋くんと話しなさい」
私と二十八年間の付き合いをしている瑞穂ちゃんには、私の気持ちなんてお見通しらしい。
心配そうな顔を向ける瑞穂ちゃんに、私は曖昧な顔でうなずいた。
松嶋くんから連絡があったのは、その日の終業前のことだった。
『今日、うちに来て待ってて。ちゃんと話すから』
内線を取ると、普段あまり見かけないくらいの焦った松嶋くんの声が受話器から聞こえてきた。
恐らく小春ちゃんから、松嶋くんが御曹司であることを私が知ったことが伝わったのだろう。
『わかった』と返事をして、受話器を置いた私は、終業後に松嶋くんのマンションへと向かった。
向かう道すがら、馴染みのスーパーに立ち寄り、夕食の買い物をすませる。
ふたりが会うのは、決まって松嶋くんの住むマンションだった。
会社から松嶋くんの家の方が近いということもあったけど、一番は私が松嶋くんを部屋に呼びたくなかったというのが一番の理由だ。
松嶋くんには、母が大学時代に亡くなったことは伝えているけれど、父に関しては私が産まれる前に亡くなったと嘘をついている。
だけど、家にある仏壇に飾られているのは、母の遺影と位牌しかない。
しっかり者の松嶋くんのことだ。家に入って仏壇を見つけたら、絶対お線香をあげたいと言うに決まっている。
そして、すぐに気づいて聞くだろう。『お父さんの写真は?』って。
そういう理由から、私はこの六年間、松嶋くんを部屋に入れたことがない。
多分松嶋くんも不思議がっているとは思うけど、付き合っていることを知った瑞穂ちゃんが『うちの親が結衣ちゃんのことを娘のように可愛がってて、過保護だから男が来たって聞いたら心配する』と言ってくれたこともあって、ここまでしのいできたのだった。