君は太陽
「気にしないで。今は小春ちゃん自身とお腹の中の赤ちゃんのことだけ考えてよ」
あたふたする小春ちゃんを必死でなだめて見送った後、私は大きなため息をついた。
松嶋くんが御曹司であること黙っていたことは全然ショックではない。
私だって、自分の生い立ちに関して話していないもの。
ショックなのは、よりにもよって、一番交わっちゃいけない人間を好きになってしまったこと。
「どうしよう……」
「何がどうしたの?」
独り言に返事が返ってきたので、私はびっくりして後ろを振り返る。
そこには、私の上司である小野山課長が立っていた。
「三枝さん、ちょっといいかしら?」
「はい」
小野山課長と連れ立って行った先は、小さな会議室。
ふたりで椅子に腰を掛けると、小野山課長がニッコリと微笑んだ。
「で、何がどうしたの? 結衣ちゃん」
「別に。なんでもないですよ?」
「今は小野山課長じゃなくて、瑞穂ちゃんとして尋ねてるの」
そうきたか……。私は気づかれないようにこっそりとため息をつく。
小野山課長……瑞穂(みずほ)ちゃんは、私たち親子がお世話になっているアパートの大家さんの娘なのだ。
母が私を産んだとき、十歳だった瑞穂ちゃん。一人っ子だったこともあり、私のことを妹のように可愛がってくれた。
就職先について悩んでいたとき、自分が働いているこのコトブキ製菓を勧めてくれたのも瑞穂ちゃん。
勘の良さで、松嶋くんとの交際に素早く気づいたのも瑞穂ちゃん。
そして、去年の業者さんとの一件を松嶋くんから聞いて、人事課長の力を活用して、今年の春に自分の手元に置いたのも、瑞穂ちゃん。
瑞穂ちゃんに隠し事は出来ない。出来たとしても、すぐにばれてしまう。
それをわかっている私は、小春ちゃんとの会話を白状したのだった。
「瑞穂ちゃんは……、知ってたよね」
私の話を聞いても、顔色ひとつ変えなかったのが知っていた証拠。
「ま、人事にいるからね。結衣ちゃんに言わなかったのは申し訳ないと思うけど、でも業務上知り得た情報だし、そこは伝えるわけにいかなかったから」
「うん。わかってる」
「で、何が心配なの?」
瑞穂ちゃんにはごまかしが効かない。
あたふたする小春ちゃんを必死でなだめて見送った後、私は大きなため息をついた。
松嶋くんが御曹司であること黙っていたことは全然ショックではない。
私だって、自分の生い立ちに関して話していないもの。
ショックなのは、よりにもよって、一番交わっちゃいけない人間を好きになってしまったこと。
「どうしよう……」
「何がどうしたの?」
独り言に返事が返ってきたので、私はびっくりして後ろを振り返る。
そこには、私の上司である小野山課長が立っていた。
「三枝さん、ちょっといいかしら?」
「はい」
小野山課長と連れ立って行った先は、小さな会議室。
ふたりで椅子に腰を掛けると、小野山課長がニッコリと微笑んだ。
「で、何がどうしたの? 結衣ちゃん」
「別に。なんでもないですよ?」
「今は小野山課長じゃなくて、瑞穂ちゃんとして尋ねてるの」
そうきたか……。私は気づかれないようにこっそりとため息をつく。
小野山課長……瑞穂(みずほ)ちゃんは、私たち親子がお世話になっているアパートの大家さんの娘なのだ。
母が私を産んだとき、十歳だった瑞穂ちゃん。一人っ子だったこともあり、私のことを妹のように可愛がってくれた。
就職先について悩んでいたとき、自分が働いているこのコトブキ製菓を勧めてくれたのも瑞穂ちゃん。
勘の良さで、松嶋くんとの交際に素早く気づいたのも瑞穂ちゃん。
そして、去年の業者さんとの一件を松嶋くんから聞いて、人事課長の力を活用して、今年の春に自分の手元に置いたのも、瑞穂ちゃん。
瑞穂ちゃんに隠し事は出来ない。出来たとしても、すぐにばれてしまう。
それをわかっている私は、小春ちゃんとの会話を白状したのだった。
「瑞穂ちゃんは……、知ってたよね」
私の話を聞いても、顔色ひとつ変えなかったのが知っていた証拠。
「ま、人事にいるからね。結衣ちゃんに言わなかったのは申し訳ないと思うけど、でも業務上知り得た情報だし、そこは伝えるわけにいかなかったから」
「うん。わかってる」
「で、何が心配なの?」
瑞穂ちゃんにはごまかしが効かない。