白馬に乗った上司様!?
きっと顔だって真っ赤になっているはずだけど、背後にいる菊里課長には見えないのだろう。

「じゃ、入ろっか」

肩を抱くように促されて店まで進むと、課長はすりガラスの引き戸を開けた。

「いらっしゃい!」

ガラガラと戸を開ける音にかぶさるように、威勢の良い声が出迎えてくれた。カウンターの中には白髪混じりの板前さんと福々しい笑顔の女将さんがいる。

「菊里さん、お久しぶりね。もう旭野さん来てるわよ」

「ありがとう。あいつ、もう飲んでる?」

「それが珍しく待ってるわ。今日はもう1人参加するからって、あら彼女?」

親しげに課長と会話する女将さんの視線が横に動いて、私と視線があった。

「いえっ、あの彼女じゃなくて部下です。菊里課長と旭野主任の部下で‥‥」

課長の名誉のためにも私みたいな地味子が彼女なんて誤解はしっかり解かなければいけない。必死で説明したら、隣から大きな笑い声が響いた。
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