誰かがどこかで救われる

中原君はそれ以上何も言わない。

雨の中
ふつうにふつうの話ばかりする。

先生の話 部活の話 テストの話

平子君の話はもう出ないけど

さっきまでの楽しい時間は、降る雨と一緒に流れてしまい、中原君の口から出た平子君の名前は、私の心の中に釘を刺したように響いてる。

ショッピングモールが目の前になった時
中原君はもうひとり別の名前を、私に言う。

「杏珠が心愛ちゃんと仲良くなってよかった」

「杏珠?」

どうしてだろう
中原君が杏珠の名前を口に出すと、アンジュ(天使)って言ってるみたい。

「家が近いんだ。杏珠の家は今は複雑でさ、去年からあまり笑顔がなくて、友達も作らないタイプだけど、心愛ちゃんと仲良くなってよかった。安心してる」

優しい声が雨に溶ける。

「中原君は……」

「うん」

「どうして誰とも付き合わないの?部活に集中したいから断ってるって本当なの?」

こんな事を聞くなんて
自分で自分が信じられない

杏珠の名前が中原君から出て、気持ちが混乱してるのかもしれない。





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