誰かがどこかで救われる
「大丈夫。私はいいから、杏珠を泊めて。杏珠の家のお父さんには言ってきた」
「それ本当?」
お母さんの言葉に今度は杏珠がうなずく。
すると
タイミングよく杏珠の制服のポケットからスマホが鳴り、杏珠は「お母さんだ」と言い指を滑らせた。
私は耳を澄まして杏珠のお母さんの声を拾おうとしたけれど、杏珠のお母さんの声が興奮気味で大きくて、この場の全員に聞こえるくらいの声だったので、耳を澄ます必要はなかった。
杏珠のお母さんは怒っていた。
杏珠が遅い時間まで友達を引き留め、家の人の言う事を聞かず、勝手に飛び出した事を怒っている。
杏珠のお母さんは何も知らない。
何も知らなすぎて
杏珠の心は弱っている。
こんな他人の家に来て
お父さんに気持ち悪い目で見られて
お母さんはわかってくれなくて
大好きなお姉ちゃんは海外で
弱っていて反論もできず
ポロッと涙を流した時
お母さんが杏珠のスマホを奪って、聞いたことのないような優しい丁寧な言葉で話し始める。
「はじめまして。杏珠さんのお母さんですか?私、杏珠さんと同じクラスで仲良くさせていただいている、笹原心愛の母です。お世話になってます。今夜はご迷惑をかけて申し訳ありません。ええ、あの子供達の話が盛り上がってまして、明日は土曜日なので、もしよかったら杏珠さんを家で一晩預かりたいのですが。ええいくら話しても話したりないみたいです。仲良くさせていただいてます。はい……ええこちらの住所と電話番号をお知らせしますね……」
スラスラと話すお母さんを私はボーっとして見てたら
「着替えておいで。彼女の着替えがなかったら、心愛の服を貸してあげなさい」
お父さんが私達にそう言った。