誰かがどこかで救われる

お母さんの手料理を杏珠と食べる。

杏珠は「おいしい」って何度も言って
お母さんを喜ばせる。

どうしてこうなったのか
お父さんもお母さんも心音も何も聞かない。
私達が話すのを待っているのだろうか。

ご飯を食べ終わって
ふたりで片付けると
お父さんがココアを入れてくれた。

「心愛がココア」
杏珠の笑顔がいつもの笑顔に戻って嬉しかった。

私達は食卓テーブルに着き
お父さんは心音をゲームに誘い、心音の部屋にゲーム機を持って行った。

お母さんは居間のソファで雑誌を読んでいる。
テレビのニュースがBGMで小さくかかり
夜はふけてゆく。

「あ、私の部屋に行こうか?」
気を使って私が言うと

「いいの。ここで全部話す。全部話すから心愛に聞いてほしい」

そう言いながら
きっと雑誌を読むお母さんを意識してるはず。

お母さんにも聞いてもらいたいのかもしれない

私は杏珠と向き合うと
杏珠は真面目な顔をする。

「話をして心愛に嫌われたくない。だからずっと話せなかった。話をしても私を嫌わないで欲しい」

「絶対嫌わないよ」

「汚いとか……言わないでほしい」

「絶対言わない」

私がきっぱりそう言うと
杏珠は小さく深呼吸をして

「あいつは父親なんかじゃない……お母さんの恋人で……」

長く苦しい話が始まる。

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