銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
そう。俺は生まれながらの王子ではない。

俺の出生を知るのは、ごく僅かな人間だけ。

民衆には伏せてある。

王位継承問題で揉めたくないからだ。

王太子となった今も、たまに子供達へのお菓子を持って、ここを訪れている。

セシルが躊躇いもなく入り口のドアを開ければ、そこにヒラリー院長が現れた。

院長は五十代後半の女性で、俺の幼少の頃を知っている。

「お久しぶりです」

スッと背筋を伸ばし、院長に令嬢らしく優雅に挨拶するセシル。

「あなたは……」

誰だかわからないのか、しばらくじっと彼女を見つめるヒラリー院長。

だが、セシルだと気づいたのか、彼女に抱きついた。

「ああ……生きていたのね。また会えて嬉しいわ」

「私もです、ヒラリー院長」

セシルも優しく微笑んで喜ぶ。
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