銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
その様子を黙って見ていたら、ようやく院長が俺に気づき名前を呼ぼうとしたので、慌てて人差し指を唇に当てて止めた。

院長は「わかった」と言うように、俺に小さく頷いて見せる。

ここでセシルに俺が王太子とは知られたくない。

知れば益々俺に警戒して近づかなくなるだろう。

「今日は差し入れを持ってきたんです。喜んでくれるといいんですが」

セシルはお菓子の入った袋を院長に見せた。

「もちろんよ。みんな甘いもの大好きですもの」

院長はふふっと笑う。

「あと……りんごも」

セシルが俺の方を振り返る。

「ありがとう。さあ、入って。あなたも」

院長はドアを大きく開けてセシルを通すと、俺に目を向けた。

一歩中に入れば、子供達の元気な声が聞こえてくる。

「変わってないですね」

セシルは懐かしそうに頰を緩めた。
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