銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
「ありがとう、クレア。ついでにお金を持っていたら貸してくれる?もうひとつ、行きたいところがあるのよ」



「何もない……か」

がっかりしながら呟き、近くのベンチに座る。

クレアの服を着た私はそっと宮殿を抜け出し、昔私の住んでいた屋敷があった場所にやってきた。

そこは芝生や木が生い茂る緑豊かな公園になっていて、時の流れを感じずにはいられない。

そうだよね。

五年も経ったんだもん。

父や母や……何か思い出のものが残っているわけがない。

花瓶のかけらでも何でもいいから残っていればと微かな望みを抱いていた。

でも……ここに屋敷があったのがまるで嘘のよう。

もう記憶の中にしか、自分が生まれ育った屋敷は存在しないのだ。

父のお墓も母のお墓も……今の私には作ってあげられない。

ふたりの遺体の行方も不明。
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