オオカミ副社長は蜜月の契りを交わしたい
「自分の気持ちを偽ってこの先も付合っていくのが俺には耐えられないんだ……ごめん」

香奈と両思いになれないとわかっていても、自分の気持ちに正直になりたくて私との事を終わりにする。それを『ごめん』の一言で済まそうとするの?

私がそれを素直に「はいそうですか」と言えるほど寛大な気持ちは持ち合わせていない。

だけど私が拒んだところで智也の気持ちが変わるとは思えない。

私が何を言おうが、どんな酷い言葉を投げつけようが、智也はその全てを受け入れるつもりなのだ。

望みのない結末だとしても……

「香奈に気持ちを伝えるの?」

「今すぐではないけどね。と言っても玉砕確定だよな……でもちゃんと気持ちは伝えるよ」

智也の目はキラキラしていた。こんな清々しい笑顔を見たのは久しぶり。

智也の覚悟が本物なんだと認めざるを得なかった。

だがそれと納得は別だ。

だから別れてあげるなんて優しい言葉をかけるなんてしなかった。

最後の抵抗ともいうのだろうか、私は無言で部屋の合い鍵をテーブルの上に乱暴に置くとそのまま部屋を出た。

それは最後の強がりでもあった。

部屋を出た途端今までの思いが波のように押し寄せ熱い物が一気にこみ上げた。

これが私にとって人生初の失恋となった。
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