高校生の私と猫。

ウォーミングアップ

地区大会に参加したときのことだった。

出番まであと30分。
私はウォーミングアップのため巻藁へ向かった。M美は出番がまだ先だが、ついてきてくれた。



巻藁は2つ。誰でも自由に使えるようになっていて、既に行列ができていた。

私の後ろにM美が並んだ。

『混んでるね~間に合うかなぁ?』
「射ったら早く戻らないと」



私の番だ。

試合の緊張もあり、身体が強張っている。
ふぅ…と大きく深呼吸をして、ゆっくり弓を持ち上げる。
巻藁の中心に標準を合わせ…弦を…弾く…

キャハハハハ~~!!

―――??!!

射とうとした瞬間、三つ編みの女の子が私と巻藁の間を走っていった。


「え?!!」

慌てて、弓を戻した。

本当に、親指が弦から離れる直前だった。
動揺から手が震え、心臓がバクバクしている。
もし弦を離していたら、私は…あの子を…


『はな…ちゃん?大丈夫?』

M美の声で、私は顔を上げた。
そして今度は怒りが込み上げてきた。

「ねぇ、今の危ないよね?!私、離す直前だったんだよ!こんなところ走るなんて非常識すぎる!!」

私は女の子が走っていった方へ向かった。

そこは突き当たりになっていて、隣高校の弓道部員が荷物を置いて座っていた。


「ちょっと!今!巻藁の前を走っていった人!」

ざわざわ…

「危ないでしょ!私が射ってたらどうなってたか!!弓道部員ならわかるでしょ?!!」

私は座っている部員達を見渡しながら、声を荒げた。しかし、女の子は見当たらない。誰かの後ろに隠れてる?

「ねぇ!謝罪はないの?!出てきなさいよ!あんなことして!!」

ざわざわ…ひそひそ…

部員達は顔を見合わせてひそひそ話しているだけだ。そんなにあの子をかばいたいの?!
私はもう少し近づいて探そうとすると


『はなちゃん!!』

M美が私の左腕を掴んだ。


『はなちゃん、行こう!!』

「でも…」
『いいから、行こう!!』


M美は腕をぐいぐい引っ張って、私を自分たちの場所まで連れ帰った。

「なんで?!M美も見てたでしょ!!三つ編みの女の子が走っていったところ!」

『いなかったよ』

「確かに見当たらなかったけど…でも!あそこで行き止まりなんだから、絶対に隣高校の部員だよ!なんで出てきて謝らないのかな!!」

『いなかったよ、三つ編みの女の子』

「うん、そうだけど!!でも…!!」


『・・・・』

M美は困った顔をすると、
何も言わずにどこかへ行ってしまった。

なによ!結局他人事?
私はこんなに怒っているのに!!
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