嘘つきな君
じっと、手に取ったその本を見つめる。

すると、ソファに座っていた彼の視線がゆっくりと私に向いた。


「それは、俺が携わった映画の原作だ」


何故ここにこの本が置いてあるか不思議に思っていると、ソファに腰かける彼が教えてくれた。

視線を彼に移すと、他にも積み上げられた本の一つを手に取って、ペラペラと捲っていた。

どこか懐かしむようなその表情を見つめながら口を開く。


「この本全てですか?」

「いや。この中では芹沢が持っている本だけ。後は、携わるはずだったものばかりだ」

「――」

「本当は――……こっちにいるはずだった」


まるで独り言のようにそう言って、パタンと本を閉じた後、じっと表紙に目を落とす常務。

その横顔は月明りの中、酷く寂しそうに見えた。

その姿に、何を言っていいか分からず再び口を噤む。

すると。


「さっきの園部会長の言葉、気になってるんだろ」

「……あ、えっと――はい……」

「これから俺の秘書として働くなら、いつかは話さなければと思ってた」


私に一切視線も向けずに、淡々とそう言った彼。

それでも、ゆっくりと再び私に視線を向けたかと思ったら、静かに口を開いた。


「俺の兄は、去年病気で亡くなった」


ポツリと呟かれたその言葉を聞いて、目を見開く。

何も言えずに、ただその瞳を見つめ返す。


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