嘘つきな君
手を伸ばしたら届きそうな場所にいるのに。
本当は届かない所にいる。
ずっとずっと、遠い所にいる。
そして、その距離は決して埋まらない。
そんな当たり前の事、すっかり忘れていた。
都合の良い様に、見えない様にしていた。
その代償が、この胸の痛み。
「バカだなぁ……私」
溢れる気持ちが、涙になって落ちそうになる。
好きって気持ちが、溢れてしまう。
それでも、ぐっと唇を噛みしめてその気持ちも涙も押し込む。
そして、自分の心を欺く魔法をかける。
大丈夫。
好きなんかじゃない
好きなんかじゃ……ない。
何度も何度も自分に魔法をかけて。
目の前にフィルターを張る。
私の心に誰も入ってこれない様に。
彼が入ってこれない様に。
「芹沢さん。ちょっといいですかー」
呼ばれた声に、一度大きく息を吐いてから足を前に出す。
隠れて涙を拭いて、口角を上げる。
しっかりしなきゃ。
ここは仕事場なんだ。
しっかりしなきゃ。