嘘つきな君
「いっぱい……喧嘩もしました。だけど、優しい所もあって……弱い所もあって。そういうの、一緒に仕事していくうちに見せてくれるようになって」
「うん」
いつも自信に溢れて、自分の弱い部分なんて見せないのに。
あの夜。
談話室で見せた姿や言葉は、彼の本当の姿だったように思う。
『常務』という仮面をつけて、必死にその姿に近づこうとしているけど、本当の彼はいろんな事に迷って、悩んで、苦しんでいた。
私達と同じように。
「そういう誰にも見せない姿、私には見せてくれて」
「いつの間にか……」
「うん」
「――……好きに……なってました」
ポツリと呟いた言葉と一緒に、瞳に涙が溜まる。
言葉にした事で、まだこんなにも好きなんだと思い知らされる。
側にいたいと、心から願っている自分を知る。
だけど、それと同時に、告白した日の彼を思い出す。
拒絶したように私を見下ろすあの目が心を壊す。
「好きに……なりました。いつのまにか大好きに」
「――うん」
「だけど……フラれちゃいました、私。この年で大失恋。っていうか、仕事場に恋なんて持ち込むなって神谷さんが言っていたの知ってるのに。それでも、告白した私は馬鹿です。それに、第一、あんな御曹司と……住む世界が違う人と、付き合えるはずなんてないのに」
「――」
「本当、身の程知らずもいい所で笑っちゃいます」
静かに相槌をうつ先輩の声を耳の端で聞きながら、ギュッとスカートを握る。
自嘲気に笑ってみせたけど、頬がピクピクと痙攣をおこす。
徐々に高ぶる感情にのまれて、俯いた瞬間パタリと涙が一粒落ちた。
「――…あの日」
そんな時、不意に聞こえた優しい声。
導かれるようにゆっくりと顔を上げると、私を見つめながら優しく微笑む先輩がいた。