嘘つきな君
その言葉に一気に心臓が早鐘を打つ。
そんな私から、少しも目を逸らさない常務。
その真っ直ぐな眼差しに引き寄せられる様に、おずおずと一歩足を前に出した。
「目……閉じてよ」
「はいはい」
クスクスと笑いながら、ゆっくりと瞳を閉じた常務。
その顔の前で確認する様に手をヒラヒラと振る。
なんでだろう。
キス一つするのに、こんなに緊張するなんて。
さっきまで、あんなに濃厚なキスをしていたのに。
自分からキスした事、ないわけじゃないのに。
それなのに、この雰囲気か、ドレスのせいか、妙に胸が高鳴る。
そっと常務の肩に手を添えて、唇を近づける。
目の前に見えるのは、まるで人形の様に長い睫毛。
形のいい唇、キメ細かい陶器の様な肌。
思わず見惚れてしまいそうになって、我に返る。
そして、息を殺して首を少しだけ傾けた。
それでも。
「焦らしすぎ」
突然、ふっと息の下で笑ってそう言った常務。
そして、瞳を開けたと思った瞬間、私の後頭部に手を添え勢いよく引き寄せた。